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千曲川旅情の歌       島崎 藤村           

 

「千曲川旅情の歌」     -落梅集より-

    昨日またかくてありけり         
    今日もまたかくてありなむ
    この命なにを齷齪(あくせく)
    明日をのみ思ひわづらふ
 
    いくたびか栄枯の夢の
    消え残る谷に下(くだ)りて
    河波のいざよふ見れば
    砂まじり水巻き帰る
 
    鳴呼古城なにをか語り
    岸の波なにをか答ふ
    過(いに)し世を静かに思へ
    百年(ももとせ)もきのふのごとし
    百年もきのふのごとし
 
    千曲川柳霞みて
        春浅く水流れたり
        ただひとり岩をめぐりて
        この岸に愁(うれひ)を繋(つな)ぐ
        この岸に愁を繋ぐ




     昨日かくてありけり 今日かくてありなむ                            
                     振一筋